2014年12月9日火曜日

「農作物づくり、楽しいね」をみんなの共通言語に
-自産自消の輪を広げて耕作放棄地ゼロをめざす

株式会社マイファーム
西辻一真 代表取締役 
(2009年度 eco japan cup 環境ビジネス・ベンチャーオープン大賞受賞)



株式会社マイファーム代表取締役 西辻一真さん


みなさんは、スーパーや八百屋で野菜を買う時、その野菜がどんなふうに育っているかを想像したことがありますか? 

今年11月7日、小田急線経堂駅から徒歩3分、「マイファーマー世田谷店」がオープンしました。
産地から直接届いた新鮮な朝採り野菜が入口で迎えてくれます。
ここは、自分で作って自分で食べる「自産自消」の循環の輪を広げる株式会社マイファームが始めた、農家や生産者と生活者をつなぐ新しい八百屋です。


 マイファーマー世田谷店 武中店長とさとみさん



●コンセプトは「畑に行きたくなる八百屋」


株式会社マイファームは、全国に40万ヘクタール、実に東京都の2倍にも広がる耕作放棄地をなくしたい、と西辻社長が24歳で起業しました。休耕地を体験農園にして、直接耕作放棄地を減らす事業からスタートし、2009年にeco japan cup環境ビジネス・ベンチャーオープン大賞を受賞しました。現在は就農家を育成する「アグリイノベーション大学校」や農産品の流通を展開。そして、人が野菜と出会う新しい拠点として今年、マイファーマー京都店に続き11月にこの世田谷店と名古屋店を相次いでオープンしました。




ここにあるのはすべて産直野菜。マイファームの直営農場や産地連携している農家、アグリイノベーション大学校を経て就農した農家などから届いた新鮮な野菜が並びます。マイファーマー(わたしの農家)の名前のとおり、作り手さんの顔が見える工夫も。店長も農業を学んでいるため、食べ方や産地のこと、どんな風に育っているのかなどを気軽に伺えます。


(直営のマイファーム滋賀農場や、産地連携する千葉県横芝光町の野菜が並ぶ)


「食べておいしい、と思ったら、ぜひ畑に行ってもらいたい」と、お店で出会った野菜を自分で作ってみたいお客様を体験農園のイベントに招待したり、連携産地へのグリーンツーリズムなど、野菜に直接ふれる企画を用意しています。お誘いいただき私もマイファーム市川農園を訪ねてみました




●体験農園マイファーム市川農園へ



東京のお隣、千葉県市川市のマイファーム市川農園は、元は梨農園だった場所。中学校の目の前に広がる畑にときおり吹奏楽部の練習する音が重なり、なんとものどかな雰囲気です。この日は土づくり講習といも掘りのイベントでした。


体験農園マイファームは、農業をしたことがない人に気軽に農業を楽しんでもらえる管理サポート付の貸農園です。農業指導をする自産自消アドバイザーが週に2日ほど駐在しますが、畑をする人同士で教え合う様子も多いとか。イベントも、本部がしつらえるのではなく、利用者の方々からやってみたい、と声があがったものをサポートしているそうです。

お子様とお友達をつれての若いご夫婦から、定年後をゆっくり楽しむご夫婦、親子3世代でいらしている方も。そして意外にもお一人で参加の女性も少なくありません。


  (自己紹介をしながら土づくりの意見交換)

(大人も子供も夢中!大きなお芋に記念撮影)


土づくり講習を終えるといよいよいも掘り大会。「土の深いほうにまだお芋が残っているよ」「細いさつまいもはお味噌汁に入れるとおいしい」など、口ぐちに声を掛け合い、まるで大きな家族のよう。週に一度畑に来て野菜作りをしているというお一人参加の女性に話を伺いました。


“最初は有機野菜を買ってみたんですが、体験こめ作りをしてみて、自分でも野菜を作ってみようかと。本当に勢いで借りましたが、思ったよりハードルはなくて。まさか自分が野菜を作り始めるなんて思ってなかったけど、調味料がなくてもおいしく食べられるんですよね。

一番驚いたのは、野菜嫌いだった主人が今では外食先で『もう少し野菜頼んだ方がいいんじゃない?』と言うようになったり” (女性利用者の方)

朝5時半から涼しいうちに作業を終えて、9時から休日を楽しんだり、逆に夕方に来たりと、農作業をうまく自分のライフスタイルに取り入れている様子。始めてみたいけど一人でできるかな、と心配していた私に「大きく負担になるようなことはなかった」と。

“小鳥のさえずりが聞こえたり、朝練をする吹奏楽部の音が聞こえたり。野菜も可愛くなってくるし、こんなに大きくなったな、もうすぐ収穫かななんて、他の人の畑を見ながら歩くのも楽しくて”(別のご利用者の方)

「これ、藁をいただいたわよ。みんなも頂いて。霜よけになるから」と利用者さんが声をかけあう声が聞こえてきました。その日収穫した白菜をおすそわけしたり、どうやっているのと教え合ったり。野菜も人も、自然な育ち合いがここでは行われているようです。


●企業のコミュニケーションにも


市川農園では法人利用も多く、あるIT系派遣企業では、新入社員の研修として毎年200名がうね立てからマルチ貼りまでを班分けして行い、同期の結束が高まったりしているそうです。普段はスタッフが畑を管理し、採れた野菜を配送して一人暮らしの方に喜ばれています。なかでも好評なのは畑コン(畑で婚活!)で、社内の独身男性のために、企業主催でもう3回も行っているとか。

「スーツを着て、企業がどこで、ということではなく、土の前だと素が出る。素の自分を見せないと農作業ってできないんですよね」とは、市川農園の立ち上げ期から関わるマイファームの荒井さん。チームに分けて土をいじり、野菜を収穫し、ピザ生地をのばして釜に入れるところまでを一連で作業する共同作業の新鮮さからか、ある回は4カップルもできたそう。上役の方が野菜の漬物を作って分けあったりと、年上、上司に関係なく、皆で野菜を作って皆でおいしく食べようという遊びがあるおかげか「離職率が下がった、と企業様から聞けたのが本当に嬉しかったです」。

一般のお客様や法人様の取り組みを通して、畑をやりながら人と人が交わると、とてもよい関係づくりができるのを体験したと言う荒井さん。どうしてなのでしょうか?


●しょうがないか、を分かち合える



“畑仕事は自然が相手ですから、虫害にやられることもあれば、トウモロコシをたくさん植えたのに全滅したといったことが日常起きるんですね。台風が来たら、台風で折れてもしょうがない、そりゃそうだ、って。

たとえ誰かが風よけや水やりを失敗しても、それが100%原因だとは限らないんです。ああ、しょうがないか、原因は鳥だな、虫だなとか。お互いの関係が悪くなるわけではなく。体験農園なので商売としてやっていないというのがもちろんありますが、来年またやるか、と諦めがつくし、出来た時はもちろんものすごく嬉しい(荒井さん)”



(「野菜の出汁だけでおいしい」畑で採れた野菜でトン汁をふるまいます)



そういえば、日常のなかで「仕方ないか」「まあ、いいか」を分かち合える場所が少なくなっているような気がします。仕事もそうですが、私生活においても、お店でオーダーを取りに来るのが遅い、とか、行事は間違いなく実施しなきゃ、と失敗ができない。何か起きたときに、原因はどこにあり、誰が問題で、それを改善するにはあのときそうするべきだったのにと掘り下げることが多い中、体験農園では周りの人と一緒に、自分自身を時間にゆだねてお互いの今を受け入れることができるのかもしれません。

「もちろん管理者側がそれに甘んじて作業を怠るのは良くないですけどね」と、手を休めることなく作業を続ける荒井さん。

「最近はお昼を一緒に食べるのが楽しくて。特に約束するわけじゃないけど、いるなーと思ったら、この休憩所に集まってみんなで昼ごはんをするんです」とは、ご夫婦で参加されている女性の方。野菜作りが楽しいから、みんなと食べるのが楽しい、へ。自産自消の循環の輪はさまざまな楽しさを広げているようです。


●捨てられた畑が、人の行き交う場所へ


使われていなかった梨園が、野菜作りを通じて世代を超えたコミュニティになっている市川農園。
例えば、地主さんが利用者さんに農業指導をしたりするケースもあるのでしょうか?


“一番の僕のロールモデルはマイファーム西宮農園ですね。もともと、もう使わないと決まっていた農地の地主さんなのですが、「西宮の農家の年齢が非常に高くなって来ている、このままだと廃れてしまう、せっかくの西宮の農業をなんとかしたい」と問い合わせを頂いて。地主さんと半年近く検討を重ねてマイファーム農園として開園しました。

ある日、大阪に働きに出ていた息子さんが、かつては止めてしまっていた畑が満席で賑わうのを見て、管理人をやりたいとおっしゃって。現在はお父さんと一緒に農園の自産自消アドバイザーをやっています。お父さんは地主の地代が入り、息子さんは管理人としての人件費が入って成り立っています” (西辻社長)





(西宮農園の様子)

●農業は苦しくない、ということを見せてあげたい


今では全国80か所に広がる体験農園ですが、耕作放棄地を貸してもらえるようになるには、相当の苦労があったそう。代々大切に土地を守ってきた農家の方の思い入れは強く、何度も交渉を重ねてやっと面会に辿り着いたものの、「若い人にはまかせられない」と結局断られ、帰り道で号泣したことも。なかなか土地を貸すことができないのは、今まで農業をやってきた方が一番その大変さを分かっているからかもしれません。

だからこそ、農業をあきらめて欲しくないと西辻社長はいいます。

株式会社マイファームが2010年から行っている「アグリイノベーション大学校」では、就農した卒業生に、マイファームが耕作放棄地をとりまとめてあっせんし、また、収穫した作物を買い取ることで安定的に生産できるようサポートしています。


“卒業生の方から、やはり実際に地方で農業を始めようと思うと苦しいよ、という声も聞き、なんとか解決できないかなと。もちろん経営感覚が優れている人達もいますから、そうした方々には僕らの販路保障をライフラインとして持って頂きながら、どんどん営業してほしい。(野菜を?)捨てないで欲しいということと、農業は苦しくないということを、きちんと見せてあげたいんです” (西辻社長)


こうして買い取った野菜はマイファームが流通させ、「マイファームの野菜」は関東のスーパーに入りはじめ、関西ではほとんどの小売店に並ぶところまでになりました。卒業生は鹿児島県や沖縄県、石川県などさまざまな場所で就農しています。


“卒業した方々が休耕地を使って農業を始め、またどんどんと休耕地を開拓していくモデルを作ることができれば、当初思っていた直接的に体験農園を作ることで耕作放棄地を解消するというだけでなく、間接的に耕作放棄地を直して行く流れが作れるんじゃないか”(西辻社長)




(グリーンマーケットに出展するアグリイノベーション大学校の皆さん)



●目的と手段を入れ替える 


取材を通して、多くの方から農業は「楽しい」という言葉が出てくるのが印象的でした。
西辻さんに伺ってみました。


“僕にはひとつ、イノベーションを起こす時の自分の武器があるんですけど、

手段と目的を入れ替える、ということをいつも考えています。


農業というと本来は、農作物を作って、何か別の価値を提供するものですよね。農作物づくりが目的だったところを、手段にしていく。農業をするために、ではしんどくなることもあるけれど、手段化させて人に渡ると、「共通言語」になるんです。

僕たちの目標は「耕作放棄地をゼロにしたい」ですから、耕作放棄地という、コミュニケーションが断絶していた土地と人をつなぐためには共通言語がないといけない。その共通言語が「農作物づくり、楽しいね」なんです。いつのまにか目的と手段がすりかわっているという状況を作ること。それをいつも考えるようにしています“

耕作放棄地ゼロを目指して、今後はもっとも課題の多い中山間地の耕作放棄地に取り組んでいきたいとお話を続けます。


“正直なところ、基本的に中山間地の耕作放棄地には対応策がない、というのが今の世の中の現状だと思います。でも中山間地というのは、一番自然資源が豊かに残っている。これを活かせる事業として、養蜂業を兵庫県で開始しました。耕作放棄地にれんげを植えるところからスタートして、株式会社マイハニーとして実際1年やってみて、非常にうまくいくなと手ごたえを得ています” (西辻社長)

アグリイノベーション大学校では全国でも珍しいミツバチ専修コースを開設しました。来年はいけす課を作りたいと、中山間地への取り組みの夢がどんどん具体化していくようです。



●自産自消の輪を広げたい


最後に、西辻さんからメッセージをいただきました。


“まったく農業に興味がなかった人が野菜を食べてみたら、マイファームって書いてある。よく見たら、農家さんの顔や気持ちが書いてある。そこから興味を持っていただき、農園を利用してもらえたらいいなと考えています。

八百屋さんやスーパーは、一般の方が一番野菜に触れる機会が多い場所ですから、マイファーマーがこれから八百屋として、体験農園に続く人と農をつなぐ拠点になっていくと嬉しい。農園を利用した人が学校に入り、農業家になったら、世界中の耕作放棄地を一緒に直しに行きましょう。出来たものに関しては、マイファームの八百屋で買い取ります!”




(マイファーマー名古屋店オープン/西辻社長)

野菜にふれあう機会として、12月1日、マイファームは新たに野菜収穫体験サービス「ヤサイコ」をスタートしました。マイファーム体験農園や直営農場で、旬の有機野菜を1回 3,000 円で収穫体験できるそうです。自分で作って自分で食べる暮らしは、思ったよりも手軽に始められそうです。
野菜をお店で手に取ってみたら、ぜひあなたも、畑に野菜のかたちを見に行ってみませんか?

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